研修予算の守り方:離職コストから考える

かつて、人材育成は仕組みとして回っていました。4月に新卒が入社し、新人研修を受け、現場で経験を積みながら、時間をかけて一人前になっていく。育成は確かに行われていましたが、それがコストとして表に出ることはありませんでした。育成は時間と勤続年数に支えられ、企業はそのどちらも当てにできました。人が辞めなかったからです。

状況は変わりました。

30代、40代、50代の社員が、かつてでは考えられなかった頻度で転職するようになりました。これまで内部登用が中心だった企業も、必要に迫られて外部からの中途採用に動いています。時間をかけた育成は今も機能しますが、それは10年後にその人がまだ在籍していればの話です。実際には、その前に辞めてしまうケースが増えています。

人事が経営や財務に研修予算を求めるとき、相手にはこう聞こえています。リターンの見えない、やわらかいコストだ、と。研修は製品を生み出すわけではありません。業績が厳しくなれば、真っ先に削られる項目です。ここで「社員のモチベーションや成長のためになる」と訴えても、議論には勝てません。モチベーションのような曖昧な効果は、財務がもっとも軽視しやすいものだからです。

主張すべきは、研修に価値があることではありません。人が辞めれば、その穴埋めに大きなコストがかかること。そして研修は、そもそも人を辞めさせないための数少ない手段のひとつだということです。

年収600万円の中堅社員を例に考えてみます。この社員が辞めると、まず後任を探すために人材紹介会社へ手数料を払います。相場は年収の30%前後、つまり180万円。新しい人が一日も働かないうちに、これだけかかります。さらに空白期間の問題があります。採用活動の間、そのポジションは中途半端にしか埋まらず、後任が見つかっても数か月は本来の力を出せません。控えめに見積もっても、年収の15〜25%にあたる仕事が回らなくなります。およそ120万円です。

退職ひとつで、おおよそ300万円。半年分の給与を払って、ようやく元の状態に戻るだけです。

一方、同じ社員にしっかりとした研修を1年間用意しても、かかるのは30万円ほどです。

辞めた一人の穴埋めにかかる費用があれば、辞めずに残る10人を育成できた計算になります。退職を一件防ぐだけで、チーム全員の1年分の研修費がまかなえるのです。

理由は、今の社員が辞める大きな要因のひとつにあります。「入社し、育成され、昇進し、その先を目指して残り続ける」という従来の仕組みが、多くの企業で回らなくなっています。今いる場所で成長し前に進む道筋が見えないとき、外からまさにそれを示されれば、人は動きます。

穴埋めにもっともコストのかかる中堅層は、この売り手市場でもっとも多くのオファーを受けている層でもあります。彼らが見ているのはお金だけではありません。今の場所で将来がより良くなるのか、そしてそこへ向かって自分が成長できているのか、ということです。

研修とは、かつて勤続年数が無償でもたらしていたものを、意図的に作り直す手段です。福利厚生ではありません。かつては自然に起きていた成長を、意識的に設計し直したものです。これを削れば、優秀な中堅社員が転職の誘いに乗らずに残る、数少ない理由のひとつを自ら手放すことになります。

だからこそ、研修は経営が気にする数字に表れてきます。人材の定着は、日本企業がもっとも多く課題に挙げるテーマです。ヘイズ(Hays)の最近の調査では、35%の企業が定着を最大の課題に挙げており、これはアジアで最も高い割合でした。研修がこの数字を動かすのは、人が辞める主な理由のひとつに直接働きかけるからです。

経営や財務と向き合うときは、借り物のROIの数字は持ち込まないことです。使うべきは、自社の数字です。昨年、辞めた社員の穴埋めにいくら使ったかを問いかけてみてください。多くの企業は、それを合計したことすらありません。一度それが数字として並べば、その数字があなたの代わりに語ってくれます。自社の数字である以上、相手も無視できないからです。

これに早く気づいた企業は、厳しさを増す採用市場の中でも人材を保てます。研修を削り続ける企業は、現状維持のために一人あたり300万円を払い続けることになります。

研修予算の守り方:離職コストから考える

かつて、人材育成は仕組みとして回っていました。4月に新卒が入社し、新人研修を受け、現場で経験を積みながら、時間をかけて一人前になっていく。育成は確かに行われていましたが、それがコストとして表に出ることはありませんでした。育成は時間と勤続年数に支えられ、企業はそのどちらも当てにできました。人が辞めなかったからです。

状況は変わりました。

30代、40代、50代の社員が、かつてでは考えられなかった頻度で転職するようになりました。これまで内部登用が中心だった企業も、必要に迫られて外部からの中途採用に動いています。時間をかけた育成は今も機能しますが、それは10年後にその人がまだ在籍していればの話です。実際には、その前に辞めてしまうケースが増えています。

人事が経営や財務に研修予算を求めるとき、相手にはこう聞こえています。リターンの見えない、やわらかいコストだ、と。研修は製品を生み出すわけではありません。業績が厳しくなれば、真っ先に削られる項目です。ここで「社員のモチベーションや成長のためになる」と訴えても、議論には勝てません。モチベーションのような曖昧な効果は、財務がもっとも軽視しやすいものだからです。

主張すべきは、研修に価値があることではありません。人が辞めれば、その穴埋めに大きなコストがかかること。そして研修は、そもそも人を辞めさせないための数少ない手段のひとつだということです。

年収600万円の中堅社員を例に考えてみます。この社員が辞めると、まず後任を探すために人材紹介会社へ手数料を払います。相場は年収の30%前後、つまり180万円。新しい人が一日も働かないうちに、これだけかかります。さらに空白期間の問題があります。採用活動の間、そのポジションは中途半端にしか埋まらず、後任が見つかっても数か月は本来の力を出せません。控えめに見積もっても、年収の15〜25%にあたる仕事が回らなくなります。およそ120万円です。

退職ひとつで、おおよそ300万円。半年分の給与を払って、ようやく元の状態に戻るだけです。

一方、同じ社員にしっかりとした研修を1年間用意しても、かかるのは30万円ほどです。

辞めた一人の穴埋めにかかる費用があれば、辞めずに残る10人を育成できた計算になります。退職を一件防ぐだけで、チーム全員の1年分の研修費がまかなえるのです。

理由は、今の社員が辞める大きな要因のひとつにあります。「入社し、育成され、昇進し、その先を目指して残り続ける」という従来の仕組みが、多くの企業で回らなくなっています。今いる場所で成長し前に進む道筋が見えないとき、外からまさにそれを示されれば、人は動きます。

穴埋めにもっともコストのかかる中堅層は、この売り手市場でもっとも多くのオファーを受けている層でもあります。彼らが見ているのはお金だけではありません。今の場所で将来がより良くなるのか、そしてそこへ向かって自分が成長できているのか、ということです。

研修とは、かつて勤続年数が無償でもたらしていたものを、意図的に作り直す手段です。福利厚生ではありません。かつては自然に起きていた成長を、意識的に設計し直したものです。これを削れば、優秀な中堅社員が転職の誘いに乗らずに残る、数少ない理由のひとつを自ら手放すことになります。

だからこそ、研修は経営が気にする数字に表れてきます。人材の定着は、日本企業がもっとも多く課題に挙げるテーマです。ヘイズ(Hays)の最近の調査では、35%の企業が定着を最大の課題に挙げており、これはアジアで最も高い割合でした。研修がこの数字を動かすのは、人が辞める主な理由のひとつに直接働きかけるからです。

経営や財務と向き合うときは、借り物のROIの数字は持ち込まないことです。使うべきは、自社の数字です。昨年、辞めた社員の穴埋めにいくら使ったかを問いかけてみてください。多くの企業は、それを合計したことすらありません。一度それが数字として並べば、その数字があなたの代わりに語ってくれます。自社の数字である以上、相手も無視できないからです。

これに早く気づいた企業は、厳しさを増す採用市場の中でも人材を保てます。研修を削り続ける企業は、現状維持のために一人あたり300万円を払い続けることになります。