2026年に向けて、多くの企業では「どの研修テーマが重要か」という議論は、すでに一段落しつつあります。
それよりも今、問われているのは、研修が日々の業務において本当に実行力の向上やリスクの低減、意思決定の明確化につながっているかどうか、という点です。
業種や地域を問わず、企業研修はこれまでのような包括的・汎用的なスキル育成から、より実務に直結したテーマへと軸足を移しつつあります。
業務がどのように進められているのか、問題がどの段階で表面化するのか、そしてプレッシャーのかかる状況下でマネージャーがどのように判断・行動しているのか。こうした点が、研修の焦点になっています。
日本では、こうした変化が特に分かりやすく現れています。グローバル本社の期待と、日本の業務慣行や制度、規制との間で、調整が必要になる場面が増えているためです。
以下では、2026年に向けて日本の企業研修に影響を与えている6つの動きを整理します。
いずれも目新しい話題というわけではありません。ただし、対応の遅れが業務や組織に与える影響は、以前よりも大きくなっています。
AI研修は「ツールの使い方」だけでは足りない

多くの社員は、正式な許可の有無にかかわらず、すでにChatGPTなどの生成AIを業務で使った経験があるでしょう。初期の研修では、メール作成や資料作成、要約など、生産性向上に焦点が当てられていました。しかし、その段階は終わりつつあります。
いま問題になっているのは「管理」です。AIの利用は、新たなリスクを生み出します。データの取り扱い、内容の確認責任、品質チェック、判断の所在など、現実的な課題が浮上しています。日本でも、政府が公表している「AI事業者ガイドライン」により、AIガバナンスはIT部門だけの問題ではなく、事業として取り組むべきテーマであることが明確になっています。
多くの企業で共通して見られるのは、AIの使い方は教えていても、そのアウトプットをどう評価し、修正し、場合によっては使わない判断をするのか、という点まで踏み込めていないことです。特に人事、広報、営業、カスタマーサポートなど、言葉が信頼やコンプライアンスに直結する部門では、この点が大きなリスクになり得ます。
日本で業務を行うグローバルチームにとって、リスクは技術面だけではありません。AIが生成する文章は丁寧に見えても、上下関係や含み、場の文脈を十分に反映できていないことがあります。一見問題なさそうでも、じわじわと摩擦を生むケースも少なくありません。
本当のネックはマネージャーの実行力
多くの企業が戦略や制度、仕組みに投資している一方で、チームごとの成果に大きな差が出ることがあります。その理由はシンプルです。実行はマネージャーに依存しているからです。

定着率や適応力、パフォーマンスは、形式的なフレームワークよりも、日々のマネジメント行動と強く結びついていることが、各種調査からも示されています。これは新しい話ではありませんが、マネージャーに求められる役割は確実に広がっています。
現在のマネージャーは、評価、育成、対立対応、コンプライアンス対応、AIを前提とした業務運用、さらにはハイブリッドチームの運営まで、同時に担うことが求められています。日本ではマネジメント研修の選択肢自体は豊富ですが、コーチング、評価、コミュニケーションなどが個別に提供されているケースが多く、全体像として整理されていないことも少なくありません。
求められているのは統合です。マネージャーは、より複雑な業務環境を運営する立場にありますが、その全体像を理解するための支援が十分とは言えない状況です。
多国籍環境では、この課題はさらに顕在化します。マネージャーは、グローバルの期待と日本の現場をつなぐ役割を担うため、ここでの不整合はそのまま業務リスクにつながります。
研修は短くなり、難しくなっている
長時間の研修は減り、短い学習形式が増えています。よく「マイクロラーニング」と呼ばれますが、本質的な変化は時間の長さではありません。「どこに組み込まれているか」が重要になっています。
スキルの変化が速い現在、課題を認識してから対応するまでに長い時間をかける余裕はありません。短い学習は業務に組み込みやすい反面、使われなければ意味がありません。
日本には短時間研修のコンテンツ自体は豊富にあります。問題は内容ではなく、その後です。マネージャーが関与せず、参加したかどうかだけで評価されると、現場での変化につながりにくくなります。
成果を出している組織では、研修を業務の一部として扱っています。実際の業務と結び付け、マネージャーが確認し、時間を置いて振り返る。そうした仕組みがなければ、短い研修ほど忘れられやすくなります。
肩書きよりスキルが重視される時代へ

採用だけで人材不足を補うことが難しくなり、多くの企業が、既存人材の活用に目を向けています。その中で、スキルを軸とした育成や社内異動への関心が高まっています。自分のスキルが将来の役割につながっていると実感できるほど、社員は組織に残りやすいという調査結果もあります。
日本でもスキルフレームワークや人的資本経営への関心は高まっていますが、実行段階で止まってしまうケースも少なくありません。スキルを整理すること自体はそれほど難しくありませんが、それを活用するのは別の話です。
スキルを職務設計や評価、実際の配置転換につなげようとした段階で、多くの課題が表面化します。そこがつながらなければ、スキルは机上の整理にとどまり、異動や成長も進みません。
これは研修内容の問題というより、構造の問題です。研修だけで解決できる話ではありませんが、設計を誤ると効果が出にくくなります。
経営に説明できる研修であることが求められている
経営層からは、研修に対してより厳しい問いが投げかけられるようになっています。
何が変わったのか。何が改善されたのか。どのリスクが軽減されたのか。参加人数や満足度だけでは、もはや十分とは言えません。特に実行力や業務の一貫性といった点で、目に見える成果を示すことが求められています。
日本では目標設定や評価の考え方を扱う研修はすでに多くありますが、実務で使える測定方法はまだ不足しています。基準値の設定、マネージャーによる観察、フォローの仕組み、経営が納得できる報告。こうした点が今後の課題です。
この流れは、リーダーシップ研修だけでなく、専門スキル、語学、異文化コミュニケーションといった分野にも及んでいます。「ソフト」と見なされがちな分野ほど、裏付けが求められています。
カスタマーハラスメントは日本における重要なリスク領域
カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラは、人事の課題からコンプライアンスの課題へと位置づけが変わってきました。新たな条例やガイドラインの影響で、研修ニーズも急速に高まっています。

対応研修を導入する企業は増えていますが、運用は分断されがちです。現場対応、管理職の判断、人事対応、法務対応がそれぞれ別に動いてしまうケースも少なくありません。エスカレーションルールが不明確で、記録や事後対応が十分でないこともあります。
今後は、現場対応から管理、HR、法的対応までを一体として設計する動きが進んでいくと考えられます。
まとめとして
2026年に向けて、研修は「どれだけ実施したか」よりも、「実際に何が変わったか」で評価されるようになります。
成果を出している組織は、研修を業務の外に置くのではなく、業務の中に組み込んでいます。日本で事業を行う企業にとっては、グローバルの期待と日本の現場をどう両立させるかが重要になります。信頼を得るために必要なのは、大きな言葉ではなく、現実的な運用です。
変化の兆しはすでに見えています。いま問われているのは、研修のあり方を見直すか、それとも忙しさだけが増える状況を続けるか、という点です。

