長年にわたり、フォーラムは信頼するトレーナーの一人である平野氏とご一緒してきました。平野氏のアプローチは、受講者のエンゲージメント、明確なコミュニケーション、実践的なスキル習得など、私たちの研修哲学にも大きな影響を与えてきました。これまで多くのプログラムを通じて、数多くの企業のチーム強化に貢献し、受講者の皆さまがより自信を持って効果的にコミュニケーションできるよう導いてくださいました。
今回のインタビューでは、企業研修における学びのあり方や、現代のビジネスパーソンに求められる力の変化について、平野氏の視点を伺いました。
あなたのトレーニングスタイルをどのように表現しますか。
私のトレーニングスタイルは、できるだけフレンドリーに、オープンに接することなんです。受講者の方々と打ち解けないと、伝わるものも伝わらなくなってしまいますから。なので、まずは雰囲気づくり、これを一番大事にしています。
ビジネスプロフェッショナルが効果的に学ぶための鍵は何だと思いますか。
これは本当に二つですね。
一つは、素直に受け止め、受け入れるということですね。
もう一つは、自分の考えに正直であるということです。
人それぞれ違うパースペクティブ(個人的見解)を持っていますよね。そこに「こうでなきゃいけない」という固定観念が入ると、別の考えが来た時に、それを受け入れることが難しくなってしまうんです。パースペクティブの違いを理解して認識したうえで、素直に受け入れる時は受け入れる、違うと思った時には正直に向き合う。私はそれが学びの秘訣だと思っています。
セミナー中、参加者のエンゲージメントをどのように保っていますか。
まず一つ目は、簡単なことなんですけれど、深呼吸ですね。「酸素足りてないでしょ」と声をかけて深呼吸をしてもらう。これだけでリフレッシュできるんですよ。
二つ目は、ずっと座りっぱなしにならないようにすること。立ち上がってチーム分けをしてもらったり、違う人と話す機会を作ったりすると、ワークショップへの集中力が上がるんです。
三つ目は、グループディスカッションをできるだけ多く入れることです。自分で喋っていたら寝る暇がないですからね。そういった工夫でエンゲージメントを保つようにしています。
日本企業でよく見られるコミュニケーションやリーダーシップの課題は何ですか。
やはり、皆さん共通して見られるのはハイコンテキスト・コミュニケーションですね。「全部言わなくても伝わるだろう」という前提で進んでしまうことです。
相手が自分と同じ理解をしているかどうかを確認しないまま進めてしまうと、結果が全然違うものになってしまうことがあります。これは自分の確認不足が原因なので、文句を言っても仕方ないですよね。自責点です。だからこそ、自分がどのレベルのハイコンテキストで話しているのかを、一度見つめ直すことがすごく重要だと思います。
参加者のニーズや期待に、近年変化を感じますか。
最近本当に増えているのは、「信頼関係」に関する課題です。
例えば、信頼関係さえできていれば、多少きつい言葉を使っても相手はハラスメントとは取りません。でも関係ができていない状態で同じことを言うと、相手が傷ついてしまうことが多々あります。
ハラスメントというのは、本人が気づいていない時が多いんですよね。だから「信頼関係をどう築くのか」というテーマで研修をやってほしい、というリクエストが増えてきています。
参加者が変化したと感じる瞬間はどんな時ですか。
やっぱり「目」ですね。
アイコンタクトをしているときに、しっかりした視線が返ってくるようになるんです。勉強しようという気持ちが出てきた時、目の色が変わるんですよ。
そして言葉づかいも変わってきます。私に質問や意見をするときに、リスペクトが含まれた表現を使ってくださるようになるんです。
さらに発言が活発になり、Q&Aが盛んになり、声も大きくなる。こういった変化が見えると、「あ、変わってきたな、集中してもらっているな」と感じます。
フォーラムのクライアントと仕事をする中で、特にありがたいと思う点は何ですか。
最初の段階から、私を直接クライアント様に会わせていただけるところですね。どんなターゲットに、どんな課題があって、研修の後にどうなっていてほしいのか。これを最初にクリアにできるんです。
そして、研修の依頼側、受託側全員がその目標に合意した上で進めることができる。それがフォーラムさんの際立ったところだと感じています。
他の研修会社と比べて、フォーラムのアプローチがユニークだと思う点は。
普通は研修素材があらかじめ用意されていて、「ガイド通りにやってください」という形が多いんです。でもフォーラムさんの場合は、私が「ここをこうしませんか」と提案すると、まず真剣に聞いてくださいます。
そして、クライアント様も含めて話し合いの機会を持ち、「それが良い」と合意されれば、そちらに方向転換できます。臨機応変性というか、許容量の大きさですよね。そこがフォーラムさんの良いところだと思います
参加者に必ず伝えているアドバイスは何ですか。
まず、人には、自分では気づいていると思っていても、実は気づいていないことがたくさんあります。一方周囲の人から見たら、あなたが何気なく行っていることを「凄い」と感じていることがあるんです。だから、自分の強みや弱みは他の人に聞くことで思いもよらない発見ができるんです。
弱みというものは案外自分でわかっているものんです。出来ないということを分かっていますからね。でも強みは、無意識に発動できるものだから、自分では気づきにくいんです。自分にとっては何でもないことでも、他の人から見たら「凄い」と言われることがあるんです。
それから、考えは頭の中だけでまとめようとせずに、紙に書き出してください。これは「textualizing」と言われていて、文字にすると目から脳に入りますし、声に出せば耳からも入ります。自分の理解も深まりますし、記憶にも残りやすくなります。
研修を選ぶ、または設計する際にHR・研修担当者が重視すべき点は何ですか。
やはり「どのような状態、状況にある誰が受けるのか」というところですね。受講者が疲れているのか、新しいプロジェクトでエキサイトしているのか、状態、状況は人それぞれです。
そして、解決したい課題は何なのか、それをどういうふうに解決したいのか。その過程で何か障害があるのか。そのあたりを研修の前に明確にしておくことをお勧めしています。
トレーナーとしてのスキルをどのように磨いていますか。
三つあります。
一つ目は、自分なりに勉強するチャンスを探すこと。海外の講師派遣会社が無料でウェビナーをやっているので、時間が合えばよく参加しています。
二つ目は、新しいキーワードが出てきたら、ウェブで調べたりAIに聞いてみたりして、定義を自分なりに分かりやすい言葉に置き換える。ここで私も「textualizing」するんですね。自分で理解できる言葉にしておくと、いつ聞かれても分かりやすく説明できます。
三つ目は、研修の場で参加者から学ぶこと。予想外のリアクションがあった時、「ああ、こういう反応もあるんだ」と思える。それを次のトレーニングに生かすようにしています。
理想的な受講者とはどんな人ですか。
私の好みで言うと、「今日は何か持って帰るぞ」とパッションに燃えている人ですね。疑問が生じた時にちゃんと質問できる気力とモチベーションを持っている人。そして、人の話を遮らないなどの基本的なマナーも備えていると、とてもやりやすいですね。
研修で一番好きな瞬間は何ですか。
やっぱり最後の瞬間ですね。
まとめのところで、「今日学んだことをどう活かしますか」と皆さんに宣言してもらうんですけれど、その内容にその日の話がちゃんと反映されていると、本当にやりがいを感じます。ここが一番好きですね。
